公務員の確定拠出型年金、メリットとデメリット
こんにちは。いなぐらパパです。
5月24日に、「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案」が衆議院本会議で可決されました。これにより、今までは対象外であった公務員や専業主婦が、2017年1月から、個人型確定拠出年金(個人型DC)に加入することが出来るようになります。
公務員にとっての個人型DCの特徴は次のとおりです。
年14.4万円までの非課税投資
公務員は年14.4万円までと、会社員よりも少なく設定されています。投資した金額だけ、その年の所得から控除されます。
課税所得 | 所得税率 | 住民税率 | 合計税率 |
195万円以下 | 5% | 10% | 15% |
195万円超~330万円以下 | 10% | 10% | 20% |
330万円超~695万円以下 | 20% | 10% | 30% |
695万円超~900万円以下 | 23% | 10% | 33% |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 10% | 43% |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 10% | 50% |
4,000万円超 | 45% | 10% | 55% |
つまり、この表の右端に書かれた合計税率を、投資金額(最大14.4万円/年)を掛けた分だけが、税額控除されるということです。(ただし、各課税所得の範囲の下限付近では、厳密には少し減ります。)
例えば、課税所得が330万円超〜695万円以下の場合、上限の14万4千円を投資すると、30%にあたる4万3,200円が返ってきます。つまり、投資した時点で30%もの含み益を得たことになるのです!
また、キャピタル・ゲイン(基準価額の増加による利益)や配当金といった運用益に対して非課税です。逆に損失があったからといって、特定口座や一般口座との間で損益通算はできません。
運用中の特徴
いちど投資した資産は、60歳になるまで原則として解約することができません。やみくもに上限いっぱいまで投資してしまうのではなく、緊急時に対応できるだけの資金は残しておきましょう。
なお、個人型DCに加入した証券会社が扱っている商品の範囲内なら、いつでも自由にファンドの組み換えが出来ます。手続きをすれば、別の証券会社に資産を移すこともできます。
また、通常は1,000円あるいは1万円などの単位でしか購入できないような商品でも、個人型DCであれば、1円単位での購入が可能です。さらに、DC向けに手数料が割安になっている商品もあります。
退職するとき
職場によっては、定年が63歳や65歳などの場合もありますが、個人型DCは一律に60歳で満期扱いです。加入年数が10年未満の場合は、加入年数に応じて、支払い可能年齢が最大65歳まで遅くなります。
年金型の受給方式と、退職金のように一括受給する方法があり、選択しなくてはなりません。一括受給の場合は、退職金と同様の課税体系が適用されます。もし職場の退職金を受け取る年と、個人型DCを一括受給する年が同じだと、合算して税計算されますので、別々の場合よりも課税額が大きくなる可能性があります。個人型DCを「いつ受け取るか」は、戦略をよく練っておく必要があります。
公務員が個人型DCに加入するメリット
企業年金や会社員の個人型DCなどと比べ、年間の投資可能額が少ないので、公務員であるがゆえのメリットはありません。一般的なメリットと同様です。すなわち、すでに述べたように、毎年の投資時点で発生する含み益(所得控除)と、運用益に対する非課税です。
公務員にとっての個人型DCのデメリット
金額すくなっ!
公務員に特有のデメリットは、ともかく運用できる金額が小さすぎることです。NISAや特定口座と違って、確定拠出年金の口座は、口座を持つだけで年間維持手数料が発生します。投資金額が少ないと、手数料の割合が相対的に大きくなってしまいます。
また、そのため実質的に意義のある運用会社は、SBI証券がほぼ唯一の選択肢になってしまいます。手数料が安く、ラインナップもまあまあ良いからです。ちなみに個人的な印象ですが、SBI証券の手数料とラインナップを見たあとで、他の運用会社の内容を見ると、「なんでこんなヘタレ商品ばっかり並べてるんだろ・・もうかるんだろうな、信託報酬高いし」って思ってしまうんですが。
なお、信託報酬手数料が高いイコール悪、とまでは思っていません。優良なアクティブファンド(それ自体がまず少ない)の手数料が、リーズナブルに高めなのは問題ないです。ですが、「インデックスでこの手数料?まじ?」ってのが多すぎます。要するに、年率リターンから手数料を差し引いた「トータルリターンはどうよ?」っていうだけのことです。
すいません、話を戻します。公務員は個人型DCの運用金額が少ないので、たいしたメリットを享受できません。ですが、毎月1万2千円ずつでも、ちびちび積み立てていくと、老後には結構な額になります。特に若い人は時間を味方につけられるので、有利でしょう。
控除枠を使いきってしまったの罠
ここから先は、公務員に限らない一般的なデメリットです。まず、住宅ローンや生命保険、医療費などで、所得税控除を使い切ってしまった人にとっては、個人型DCでの所得税控除の恩恵はありません。特にアブナイのが住宅ローン減税でしょう。あとどれだけ枠が残っているのか、しっかり確認しておきましょう。
個別株投資ができない
パパが問題視している最大のデメリットがこれです。個人年金という目的のため、リスクの大きい運用はさせないという趣旨なのでしょう。下手な投信よりも、リスク対リターンの良い個別株だってあるのですが・・。
制度上は個別株も扱えるのだと思いますが、実際には扱っている運用会社がありません。例えば、米国株をメインに投資していて、年率リターン10%を得ているとします。これは割りと現実的な数値です。そして、個人型DCは所得減税ウマーとか言って、別段好みでもない投資信託をDC口座で買ったとします。その投信のリターンが7%(これも割りと現実的)だとしたらどうでしょう。
所得税率20%の方の場合、住民税とあわせて初年度は、減税率に相当する30%のリターンを得ます。10年間運用すると、1.3 * (1.07)^10 = 2.56 ですから、156%のリターンを得たことになります。
一方、リターン10%の米国株をNISA口座で運用すると、運用益は非課税なので、(1.10)^10 = 2.59 により、159%のリターン。つまり個人型DCでの投信とほぼ同じです。DCでは60歳までの資金拘束や手数料といったデメリットがありますから、この場合はNISA口座での米国株のほうが有利です。
さらに、運用年数が10年以上になるなら、リターンだけを見ても個人型DCのほうが不利ということになってしまうのです。
ですから、個人型DCの活用ありきでDC口座を開設するのではなく、まずは自分の資産運用方針を決め、その方針に合致すると判断したのならば、個人型DCを活用する、と考えましょう。上記の例のように、米国株だけで運用する方針の人が、無理にDC口座を開設するメリットはありません。
一方、多少なりとも投資信託をポートフォリオに入れておく運用方針であるなら、投資信託の部分はDC運用する価値があるでしょう。また、投資額がNISA枠を超えてしまう場合に、課税口座で米国株投資を続けるよりも、投信でいいから非課税のほうが有利、という計算になる場合は、DC活用を検討するのが良いでしょう。
いずれの場合も、「60歳まで資金拘束されること」「手数料が割に合わない可能性」には、十分注意する必要があります。いろいろ考えると、何かと面倒なシステムなんですよねぇ。
2016/06/17